会長あいさつ

ごあいさつ -第45回日本神経心理学会学術集会へのお誘い-

第45回日本神経心理学会学術集会
会長:三村 將 慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 教授


第45回日本神経心理学会学術集会を開催させていただく慶應義塾大学医学部精神神経科の三村です。歴史ある本会の学術集会を担当させていただくことを大変光栄に思っております。

 日時は本年2021年、東京オリンピックパラリンピックも終わった9月30日と10月1日です。ただ、皆さまに重要なお知らせがあります。これまで千代田区一ツ橋の日本教育会館で現地開催を予定していましたが、8月初旬の現在、東京では新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、大変残念ですが、現地開催は困難と判断しました。可能な限り対面でのリアルな人と人とのつながりが重要な絆であると考えていた私にとっては苦渋の決断ですが、やむを得ない事情をご理解ください。

 ウェブ開催とさせていただきますが、ぜひ多くの先生方にご参加いただき、座長や演者にはできるだけ会場においでいただいて、活発な意見交換が行えるようにしたいと思います。さらにオンデマンド配信・視聴も合わせて行いますので、ぜひお時間のある時に安全・安心にご視聴ください。

 今回の学術集会のテーマは「さまざまな記憶のかたち」とさせていただきました。会長講演も同じタイトルで行います。「記憶」はもちろん人の高次脳機能の中核にある問題です。見かたによってはあらゆる高次脳機能は記憶とつながっていると言っても過言ではないと思います。一方、これまでの本学会の学術集会のテーマを振り返ってみますと、「記憶」にフォーカスを当てたことはあまりないように思います。ヒトは過去-現在-未来という時間継起の中で生きる動物です。過去の体験から未来を考えることはヒトに特有の現象とも言えます。今回は特別講演や教育講演、シンポジウムなどにも記憶と関連した内容を多く盛り込み、さまざまな記憶の側面を話し合いたいと思います。

 もちろん記憶以外の神経心理学的トピックについても、注意、言語、前頭葉機能、視覚認知、発達障害、認知症など、多くの話題を盛り込ませていただきました。

 特別講演はお2人の先生にお願いしました。1人は東京大学薬学部の池谷 裕二教授です。池谷教授はニューロサイエンスに関する最先端のご研究をトップジャーナルに次々と発表しておられる当代随一の神経科学者であると同時に、「海馬」や「パパは脳科学者」といった一般書、あるいはテレビのニュース番組のコメンテーターとしてもよく知られている著明な方です。当教室の田中謙二准教授とも共同研究をしてくれていますが、今回はニューロサイエンスの知見をわかりやすくお話しいただけると思います。2人目はボストン大学の記憶障害研究センターの所長であるMieke Verfaellie教授です。Verfaellie教授は私がボストン留学中の上司で、直接に記憶研究をご指導いただきました。残念ながら来日はかないませんが、今回のテーマである記憶、特に未来性思考、future thinkingと脳損傷との関係についてお話しいただくことになっています。

 他に教育講演を7つ、国内からは京都大学の月浦 崇 先生に記憶について、帝京平成大学の永井知代子先生に視覚認知について、帝京大学の小林俊輔先生にドーパミンと認知制御について、長寿医療研究センターの安野史彦先生に神経画像、特にPETに関するご講演をいただきます。また、海外からはロンドンの精神医学研究所のDominic ffytche先生に錯覚や幻覚など視覚認知障害、UCSFのGorno-Tempini教授の共同研究者であるBoon Tee先生に進行性失語、ブエノスアイレス大学のFacundo Manes先生にFTLDの最新の知見についてご講演いただきます。

 さらに、シンポジウムを6つ、「神経病理と神経心理」「発達障害のリハビリテーション」「さまざまな注意のかたち」「機能神経外科からみる高次脳機能障害」「コロナ時代の遠隔神経心理検査」「記憶と時間」と盛りだくさんな企画を用意しています。必ずや参加者の皆さまのお役に立つ内容と確信しています。どうぞふるってご参加くださいますようお願い申し上げます。